インターネット天文台 ASOB-i プロジェクト概要


ことの起こり

1997年秋 プロジェクトを構想
1998年はじめ 研究調査助成に採択
1998年4月 プロジェクトが開始
1999年3月 一号機の設置完了
慶應高校に設置された一号機
インターネット天文台プロジェクトは、 東京理科大学計算科学フロンティア研究センターと 慶應義塾高等学校地学教室との 共同研究として、1997年(平成9年)秋にスタートしました。 佐藤(理科大)、坪田・松本(慶應高)の三名で、 「インターネットを経由した望遠鏡遠隔操作による、ライブ天体画像の 取得とその教育現場での活用」 と題し、 電気通信普及財団の研究調査助成に応募したのが出発点でした (本当の出発点は実は、ビールを飲みながら計画を生み出した某所の ライオンかも知れません)。

翌1998年はじめに採択が通知されて、 平成9年度電気通信普及財団研究調査助成(実施は平成10年度)を 受けられることとなり、正式にプロジェクトが始動したのです。 平成10年度は、天文台操作インターフェイスを試作し、1999年春に 慶應日吉キャンパスに一号機を設置しました。

「インターネット天文台」という名称は、1998年秋頃に開発者どうしの メールの中で初めて登場します。外向けには、 日本天文学会1999年春季年会での講演 「天文月報」誌(1999年6月号)への報告が、 この呼び名を認識してもらった最初の機会といえる でしょう。


私たちの考える「インターネット天文台」

このプロジェクトがスタートした当時、インターネット上で天体画像を 取得できる「ロボット望遠鏡」システムは、既にいくつかありました。 それらはおおむね、画像として欲しい天体リストをリクエストし、運営 側が観測をスケジュールし実行、後日に画像が送られてくる形式でした。 リクエストから画像入手までの時間は決して短くなく、教育現場で 気軽に使うには不便なものだったのです。 みさと天文台のようにライブで天体を見せてくれる施設もありました が、実験的な色彩が強く、かつ利用者はあくまでも 「スタッフに天体を見せてもらう」お客さん の位置づけでした。

そこで私たちは、 「観測の開始から、望遠鏡の操作、観測の終了まですべてを、利用者が インターネットを通してインタラクティブに行える、ライブ性のある 完全無人の遠隔操作天文台」 「インターネット天文台」と定義しました (1998年当時、この名称はどこにも使われていなかったと記憶します)。 インターネット天文台では利用者は、 「みずから天文台を操作し、自分の見たい天体を 見る」主役となります。 大望遠鏡がこのような用途に使いにくいのは当然ですから、小口径の コンピュータ制御式望遠鏡を中心とした「小さな天文台」システムと して、一号機を製作したのでした。

そして誰でも使えるように、特別な道具を必要と しない構成を選択しました。操作インターフェイスはウェブ・ ブラウザを用い、RealPlayerで天文台からの動画を見るというスタイル をとったわけです。助成金を受けて進めるプロジェクトは社会還元を しなければならないというスタンスから、無料で 開放しています。


人々との出会い

立派な成果を挙げている他プロジェクトと同様に、私たちも多くの 人々に出会い支えられ、このプロジェクトを進めてきています。
我々がお手本とした みさと天文台操作インターフェイスの製作者、曽我氏からはプログラム を提供して頂き、多くのことを教えて頂きました。最終的にはそれは 使わず、すべて我々が書き起こしたプログラムを用いていますが、曽我 さんの助言なしでは、道はずっと遠かったはずです。
高知高専の今井氏からは1998年秋に、Real Videoによるストリーミング について教えて頂き、臨場感ある天文台操作が可能になりました (はじめは、冷却CCDカメラST-7を用い、天体の静止画を取得する計画 でした)。
個々には述べないものの、各機器のメーカーからももちろん多大な ご協力を頂き、今日のインターネット天文台があるのです。

20世紀が幕を閉じるまでに

1999年4月 プロジェクト第二期
1999年夏 海外へ星空の提供
1999年9月 二号機の設置完了
2000年春 完全無人で実用化
東京理科大に設置された二号機
平成11年度には、電気通信普及財団からの研究調査助成(継続)を受け、 また私学共済事業団の「特色ある教育研究の推進」助成も受け、 理大野田キャンパスに二号機を設置(1999年9月)することが できました。この二号機は慶應の一号機とほぼ同じ構成でしたから、 制御ソフトなどの開発はぐっと効率的になり、2000年春には「完成」 の域に達したのです (天文学会 2000年春季年会で制御ソフトを配布)。

理大インターネット天文台の製作中に、あらためてプロジェクト名を ASOB-i と命名しました。これは
Astronomical Observatory over the Internet
を略したものです。ローマ字読みすれば「あそび」ですから、良い意味 での「遊び心」でプロジェクトが推進されていることを示しています。 勉強も遊びと思えばこそ楽しく、インターネット天文台が教育現場で そのような役割を果たして欲しい、そうした願いも こめられています。

平成12年度には、再び私学共済事業団の「特色ある教育研究の推進」 助成を受けました。理大インターネット天文台に、太陽Hα望遠鏡と、 イメージインテンシファイヤが導入され、観測対象の幅が広がったの です。こうして20世紀の終わる2000年末までに、インターネット天文台は 完成・実用化されました。


新世紀を迎えて 〜インターネット天文台の拡大〜

2001年5月 佐藤が熊本大へ移動
2002年4月 科研費での活動開始
2002年11月 三号機の設置完了
熊本大に設置された三号機
プロジェクト・リーダーの佐藤は2001年5月、熊本大学教育学部にその 職場を移しました。明けて平成14年度、科学研究費補助金の一つ、 特定領域研究「新世紀型理数科系教育の発展研究」を受け、 インターネット天文台三号機が完成(2002年11月)したのです。

熊本大学屋上に完成したこの天文台は、最初の二機から時間が経って いることもあり、新しい冷却CCDカメラ(SBIG STV)を用いたり、制御 ソフト・デザインが大幅に変更されるなど、長足の進歩を遂げました。 また、西日本初のインターネット天文台ですから、関東が悪天候でも 天体観測を提供できたり、日食や星食など、場所により見え方の異なる 現象の観測に威力を発揮するのです。

それでもできないこと、 「昼間の教室から夜空を観測すること」、 この実現が次の課題となったのです。


ついに海外へ 〜ガーナへの道〜

2002年8月 御茶ノ水の夜
2003年4月 科研費での活動開始
2003年8月 第一次ガーナ渡航
2003年12月 ガーナ天文台が完成
ガーナに設置された四号機
「なぜガーナなの?」と、よくたずねられます。後づけされた理由は、 「天文月報」誌(2003年11月号)に書いたのですが、 本当の理由は 「御茶ノ水の居酒屋で酒を飲みながら、勢いで決めた」のでした (プロジェクト発足のときと同じパターンです)。ともあれ申請はぶじ 認められ、科学研究費補助金基盤研究B海外学術調査を受け、ガーナへの 天文台設置が始まりました(2003年4月)。

これ以降の展開は、本ホームページのあちこち(設置風景や、資料室、 情報室)に十分述べていますので、ここでは繰り返しません。 大切なのは、 「インターネット天文台は、ただの道具に 過ぎない」ということです。つまり、この道具を使って何を するか、何ができるのかが重要です。私たちはそれは「教育現場での 活用」と考えていますし、きっと天体を含め理科の好きな子どもたちが 育ってくれると期待しています。インターネット天文台ホームページで、 学校の先生のサポートに力を入れている のも、それが理由です。

ネットを通じて夜空を見る体験そのものは、やがて珍しいことでは なくなるでしょう。それでも、月のクレータや土星の環を見て子どもが 大喜びするという姿は変わらない、と思います。インターネット 天文台で映像を見ながら、天体について楽しく学ぶ、そんなスタイルが 定着してゆくことを、私たちは願っています。