望遠鏡の据え付け精度が非常に重要です |
ここではまず、LX-200望遠鏡の経緯台としての据え付け精度について述べます。
多くの場合、経緯台の水平度は赤道儀の極軸ほどには高い精度で出されて
いません。視野の広いファインダーをのぞきながら、人間が最初の天体位置を
修正できる(そして one-star alignment を行える)場合にはそれでも良い
のですが、インターネット天文台のように無人で運用される場合には、この
もともとの据え付け精度が非常に重要となってくるのです。
LX-200望遠鏡の水準器は正確ではありません |
LX-200のベースには水準器が備えられていますが、これでは不十分です (我々の望遠鏡を、天体を用いて水平度を出すと、水準器の気泡が目に 見えて中心からズレることを経験しました)。そこで、より高い水平度を 求める場合、手順は次のようになります。
さらに高い水平度を出すために |
望遠鏡を常時オンとしておく方法 |
上の手続きで非常に高い精度まで水平度を出した LX-200 望遠鏡は、 電源をオフとしなければ、その alignment を保ち続けます。 しかし ALTAZ モードの LX-200 望遠鏡は天体追尾を続けようとします ので、時間が経つと望遠鏡はあらぬ方向を向いてしまいます。これを 避けるには LAND モードへ移行するのがベストです。
シリアル回線からのコマンドでモード変遷を行なう方法は、望遠鏡
マニュアルには明記されていませんが、次のようなコマンドで行なう
ことができます。
ALTAZモードへ | LANDモードへ | POLARモードへ |
---|---|---|
#:AA# | #:AL# | #:AP# |
望遠鏡を常時オンとしておく利点は、(1) alignment が保持される、 (2) 立ち上がり時間が短くて済む、ということです。 一方、望遠鏡は常に コマンドを受け付けていますので、セキュリティ上は万全ではないという 不安はあります。また、停電などにより電源が失われれば当然 alignment も失われてしまいます。 本制御ソフトでは、望遠鏡をホームポジションに 向け LAND モードに移行した後の停電には対応していて、その場合は次回の システム立ち上げ時に config/control ファイルで望遠鏡の行を auto、 config/telescope ファイルで sync の行を yes にして立ち上げて下さい。 以下に述べる「自動較正」アルゴリズムにより、可能な限りの alignment 復元を行ないます。
電源オフ→オン時の自動較正について |
望遠鏡の電源を毎回オフにしたいという要求は、必ずあると思います。 セキュリティ上の理由もあるでしょうし、また遠隔地の天文台の場合、 電源をオンオフしてくれる管理人はいるものの、その人が望遠鏡の操作 (alignment の方法など)は良く知らないというケースなども、ありそうな 話です。 そうした要求のために、本制御ソフトウェアでは、電源オフ→オン時に 可能な限り自動較正を行なうように考えられています。
自動較正の準備として、config/telescope ファイルの三行目を no (自動較正無効)としてログインします。次に、ハンドコントローラを 用いて alignment の基準星を選択して、望遠鏡を向けます。マニュアルで 望遠鏡の方向を修正し alignment を完了。その後は望遠鏡に触れず、 ソフトウェアによりすべてを終了します(ルーフを閉じ、望遠鏡電源を オフにする)。 そして、 config/telescope ファイル三行目を yes(自動較正有効)と しておけば、次回以降は、望遠鏡電源オフ時にホームポジション情報を保存し、 次の電源オン時にそれをもとに自動較正が行われるようになります。
自動較正のアルゴリズムの詳細は以下に述べてあります。欠点としては、
立ち上がり時間が長くなるという点が挙げられます。
LX-200望遠鏡の立ち上がりには約20秒必要ですから、いったんオンとなった
望遠鏡を自動較正のためにもう一度オフ→オンとするために全体で1分30秒
程度かかります。最良のポインティングのためにはやむを得ないことでも
あるし、その旨のメッセージも表示するのですが、望遠鏡を目の前にして
いるのと違いブラウザの前でただ待たされていると、余計に長く感じると
いうことはあるようです。
二種類の高度の存在について |
LX-200望遠鏡は電源がオンとなった時に望遠鏡が向いている方向を 「高度 0°、方位角 0°」と解釈して、以降はそれを基準に動作する ということになっているそうです。しかし、LX-200が「二種類の高度」 を使い分けているらしいことは、どこにも書かれていません。本制御 ソフト開発中にいろいろと試してみて、どうやらそうらしいという ことが分かってきました。 二種類の高度とは具体的には、
天文年鑑(2000年版)によると、大気差は次のような値を持っています (秒の単位は丸めてあります)。
見かけの高度 | 真の高度 | 見かけの高度 | 真の高度 | 見かけの高度 | 真の高度 |
---|---|---|---|---|---|
0° | -35' | 6° | 5° 52' | 20° | 19° 57' |
1° | 35' | 7° | 6° 53' | 30° | 29° 58' |
2° | 1° 42' | 8° | 7° 53' | 40° | 39° 59' |
3° | 2° 46' | 9° | 8° 54' | 50° | 49° 59' |
4° | 3° 48' | 10° | 9° 55' | 60° | 59° 59' |
5° | 4° 50' | 15° | 14° 56' | 70° | 70° 00' |
大気差は水平で最大であることから… |
上のような考察から、本制御ソフトウェアでは、電源オフ直前の高度と 方位角をもとにいったん「絶対高度 0°、方位角 0°」に望遠鏡を向ける 際、大気差の補正を行なっています。 つまり前回電源オフ時に望遠鏡が「高度 0°」を報告していたとしたら、 その時の鏡筒の向きは「高度 0°35'」のことですから、鏡筒を下へ 35' 振るわけです。
本ソフトウェアの計算する大気差とLX-200が計算する
それとの差は、そのままポインティングのズレになりますので、望遠鏡
ホームポジションには、ルーフ開閉に支障のない範囲で高い高度(大気差の
影響が小さい)を与えるのが良いでしょう。
ルーフと望遠鏡のクリアランスが十分でなく、どうしても水平を向けなけ
ればならない場合は、config/atm_ref ファイルで調整を行なうことが
できます。このファイルには絶対高度 0°に対応する大気差(天体像の
浮き上がり)が角度の分を単位に書かれています。
もし徐々に望遠鏡が上(下)を向き過ぎるようになったら、このファイルに
書かれている値を増やして(減らして)みて下さい。
経緯台の水平度が十分に高まると、次に自動導入の妨げとなるのは、 望遠鏡各部の精度の不足です(もちろん、LX-200望遠鏡のコストに 対しては非常に高い精度に仕上がっているわけで、そのことは賞讚 しなければなりません)。 ここでは、それらの精度不足をソフトウェア的に補正する方法について 述べます。
高度軸の傾き |
水平回転ベースに対して高度(垂直回転)軸が完全に平行でなければ、 望遠鏡を高度方向に動かすことで水平方向への鏡筒の振れが発生することに なります。理大天文台の望遠鏡では、その量は最大で約12'程度と見積もって いますが、視野の狭いCCD撮像の場合には無視できない大きさであるといえる でしょう。
本ソフトウェアでは、高度軸の傾きにより発生する水平偏差を次のような 式で近似して補正しています。
Δ = a × (sin(alt - alt_ref))**nここに、alt_ref は基準高度ですが、高度軸の場合にはこれを0°とする のが自然です。従って上の式は、Δ = a × sin(alt)**n となります。 高度 alt0 の天体で座標較正をしたとすれば、任意の高度 alt に対しては、 Δ = a × { sin(alt)**n - sin(alt0)**n } だけ水平偏差が発生することに なりますので、これを補正してやれば良いわけです。
ここで注意しなければならないのは、上のΔは完全な垂直軸からのズレを 「距離」で表しているということです。これを望遠鏡の水平回転により補正 するためには、高度 alt を通る円の半径が cos(alt) であることを考慮して、
Δazi = Δ / cos(alt)のように、高い高度ほど大きな Δazi を与えるようにします。
adm/config/azi_corr ファイルには、上で述べた量のうち、alt_ref を一行目に、 a (角度の分を単位)を二行目に記録します。はじめは a=0.0 としておき、 徐々にそれを調整してゆけば良いでしょう。このとき、次の方位角依存の 誤差を最小限に抑えるため、できるだけ方位角の近い天体を用いて調整を 行ないます。高度が上がるにつれ、視野中で天体が西に逃げる(つまり鏡筒が 東に振れる)とき、a は正の数値、その反対のときに負となります。
ウォームホイールの偏心 |
上で述べた補正で十分と思いきや、まだ別の誤差が隠れていました(ただし、 望遠鏡の個体差が大きい部分と思いますので、他のサイトでは問題とならない 可能性もあります)。 理大LX-200では、天体の方位角に依存して ±3.5' 程度の水平偏差が生じます。 想像としてはこれは、水平回転軸の中心に対してウォームホイールがわずかに 偏心しているためと思われます。つまり歯が回転軸に近い部分では進み、歯が 回転軸から遠い部分では遅れるわけで、360°を一周期とする遅速が現われる わけです。ウォームギヤの偏心によるピリオディックモーションと同じもの ですが、こちらがこれまで注目されることがなかったのは、自動導入望遠鏡が アマチュアの手に渡ってから、まだ日が浅いことによるのでしょう。
高度軸の場合と同様に、
Δazi = b × sin(azi - azi_ref)として近似しました(n=1)。360度回転するとプラスとマイナスが現われ、 もとの方位角(とその180度反対)では偏差0となります。この場合には azi_ref を 0°とするわけにはいきません。このパラメータだけはプログラム・ファイル tele_sub.pl 中に埋め込まれていて、各サイトでそれを直接変更する必要が あります。パラメータ azi_ref と、b は adm/config/azi_corr ファイルの三行目と四行目に記録します。 こちらは、高度軸の場合と異なり、初めから Δazi が得られますので、 cos(alt) による補正をする必要はありません。
従って、alt_ref, a, azi_ref, b の四つのパラメータを、日常の運用を しながら最適値に追い込んでゆけば良いのです。また、天体を用いて 座標較正を行なうと、alt0, azi0 が変わります。 これらの値は communicate/sync.dat ファイルに記録され、batch.pl を用いて sync コマンドを発行した場合には、自動的に更新されます。
はたしてこれで十分かというと、実は自信がありません。理大 LX-200 の 場合は、水平ウォームホイールに対する補正は必要であったものの、垂直軸で 同様の補正は必要に思えませんでした。しかし、サイト(望遠鏡の個体)によって は、そのような補正が必要となるケースもあるかも知れません。もっとも、 水平が360°すべて使われるのに対し、垂直はわずか90°の狭い範囲で使われ ますから、同じ量の偏心があってもその影響は半分以下にしか感じられない でしょう。いずれにしても、完全無人運転を行なうインターネット天文台では、 視野に天体が入ってこなくなると非常にやっかいですので、指向精度の追求は とことん行なうべきであると考えます。
以上を補正した後の導入精度 |
参考までに、理大天文台において、以上の補正を施し自動導入テストを
行った RealVideo 映像を
ここに示します。
高度→水平偏差の補正パラメータは a=-12.5, n=4 とし、水平→水平偏差の
補正パラメータは a=3.5,azi_ref=180.0 としています。
20cm/F6.3 の直接焦点撮像で、視野はおよそ 18'×13'、導入テストに
用いた恒星は以下の通り。
STAR 1 | リゲル |
---|---|
STAR 2 | ベテルギウス |
STAR 3 | シリウス |
STAR 4 | プロキオン |
STAR 5 | アルデバラン |
STAR 6 | カストル |
STAR 7 | ポルックス |
STAR 8 | カペラ |
STAR 9 | レグルス |
STAR 10 | デネボラ |
STAR 11 | アークチュルス |
STAR 12 | スピカ |
映像は本ソフトウェアの batch モードにより、すべて自動撮像 されました。 望遠鏡が動くときは監視カメラ映像、導入が終了すると 天体映像に切り替わり、その後、水平補正が加わる様子が観察できます (各恒星につき1分ずつ)。 つまり、カメラが切り替わった直後の恒星の位置が、LX-200 望遠鏡の 「素」の導入精度であり、かなり大きな水平偏差が残されることが 分かります(F10 直接焦点では、いくつかは視野からのがしてしまう でしょう)。
映像を観察すると、#6, 7, 9, 10 といった高度の高い星の水平補正 (画面中で左から右への動き)がまだ過剰なようで、n と a の組み合わせが やや不適当なように感じられます。 それでも全体は 4'×3' のボックス内に おさまっていますので、このくらいまで詰めれば、F10 直接焦点あるいは もっと大きな拡大率を使用しても自動導入が可能でしょう。 特筆すべきは、このテスト撮像が「望遠鏡電源オフの初期状態」から 最後まですべて、まったく人手を介さずに行われていることで、これなら ロボット望遠鏡として十分に活躍できると思われます。